健康情報は、テレビや新聞・雑誌・インターネットなどから大量に流されて来ます。しかも一方的な情報です。なかには商魂たくましい情報も見え隠れしています。
今回は、多くの健康情報と上手に付き合うためのひとつの方法をフードファディズムという見方で考えてみましょう。
題して
からだに良い食べ物ってありますか?
~フードファディズム Q&A~
健康情報に興味のあるQさんとかかりつけ医Aさんとの問答です。
Q:「食べ物や栄養が健康に与える影響を信じすぎたり評価し過ぎることを、フードファディズムと呼ぶようですけれども、この用語はいつごろから使われるようになったのですか?」
A:「そうですね、フードファディズムという言葉は、もちろん英語なのですが、
今から50年ほど前アメリカで最初に使われ始めまして、私たちの国で使われるようになったのは10年ほど前からですね。」
Q:「そうですか。実際、フードファディズムで困られた例にはどのようなものがありますか?」
A:「そうですね。糖尿病のかたなのですが、コントロールがなかなかうまく行かないので、食事についていろいろ細かく伺ってみたらばですね、身体に良いからと、タマネギやきな粉やゴマ、ヨーグルトや蜂蜜、目に良いからと ブルーベリーに至るまで毎食摂っていたんですね。いずれもカロリーがありますから血糖は上がるわけです。結局いくつか中止していただいて糖尿病のコントロールが良くなってきたという患者さんを経験しています。
Q:「そうなんですか?みんな一応身体によいと言われているものですけれども、違うんですね!そうしますと、このフードファディズムという表現が使われ始めた背景としてはどのようなことがあるのでしょうか?」
A:「そうですね。食べ物と健康という関係は昔から非常に大切な関係があります。生きるためにはとにかく何かを食べないといけませんからね。」 Q:「そうですね。」 A:「食べ物や栄養が足らないと、いろいろな病気に罹りやすくなることは良く知られています。かつて結核は国民病として多くの命を奪いましたが、当時は食料が乏しく栄養状態も悪かったと言うことが大きく影響していたようですね。」
Q:「今の社会は、逆に、あふれるほどの食べ物に囲まれていますよね。」
A:「そうなんです。地球上ではまだ食料難で大変な地域もありますが、多くの地域では、いまや食べ過ぎによる肥満ひいては糖尿病や高血圧などの生活習慣病やメタボリックシンドロームなどが問題となってきています。そしてこのような病気の治療といえば、薬を使うよりもまず食生活の見直しが第一に行われなければならないのですが、実際は、食習慣や運動習慣もそうですけれども、おいそれと修正できないのが現状ではないでしょうか。」
Q:「そうですね。好みはなかなか変えられませんね。」
A:「私たちの国のように、ある程度ものが豊かになって来ると、今度は健康に対する願望が強くなってくるんですね。今や健康ブームと言われてますが、実際、健康のためなら何でも試してみたい!と思う方々が増えて来ています。こういう状況の下で、この食品を食べれば血糖が下がるとか血圧が下がるとか、あるいは、身体に良いとか、あるいは逆に、これを食べると身体に害が出るから食べないほうが良いとかの情報がまことしやかに流されますと、その情報に飛びついてしまうかたが多くなるわけですね。ある種の食べ物を食べるだけで、生活習慣の乱れが修正されてしまうという一種の魔法の食材として受け入れてしまうわけですね。
Q:「魔法の食材ですか。そういう傾向は身の周りに確かにありますね。」
A:「そうですね。飛びついてしまう気持ちは分からないでもないですよね。しかし実際はそのような魔法の食材は無いんですね。ですので、フードファディズムという表現が登場してきた背景には、昨今の疾病構造の変化や健康ブームがあるようですね。そしてこのフードファディズムという言葉には、食べ物や栄養の情報に注意しましょうね!という警鐘を鳴らす意味合いも強く含まれていると言えますね。」
Q:「ではフードファディズムにはどんなものがあるのでしょうか?今いくつか例が挙げられておりましたが。」
A:「そうですね、少し前では紅茶キノコや酢大豆など、最近ではヨーグルトやココア、ついこの間では寒天ダイエットや納豆ですか、健康効果をことさら謳いあげて爆発的な流行を起こしてしまうというものがまず第一でしょうか。」
Q:「そう言えばありましたね。マスコミで取り上げられて、翌日から売り切れ続出のケースですね。」
A:「そうですね。でもじきにすたれてしまいましたね。
二つ目は、いわゆる健康食品や栄養補助食品と呼ばれる食べ物や飲み物です。いかにもそれを食べたり飲んだりさえすれば元気になるとか若返るとか病気が治るとかの情報を発信する売らんが為のものです。」
Q:「そのような情報たしかに多いですよね。これも、つい試してみたくなってしまうかも知れませんね。」
A:「3つ目として、食品に対する不安をあおると言いますか、特定の食品を、身体に悪いと非難する一方で、こちらは身体に良いからと薦めるものです。たとえば、天然の物や植物性は良くて、人工的に作ったものや動物性は悪いといった傾向です。この傾向に便乗して“あちらの商品は危険だらけですけどうちの製品は安全ですよ”と言って消費者の不安をあおる不安便乗ビジネスと呼ばれるものがあります。」
Q:「確かにそのような傾向は私たちにありますね。そうしますとフードファディズムにはまぁ3つのタイプがあると言うことですね。」
A:「はい。そのように分けると理解しやすいと思います。」
Q:「 そうしますと、今現在、私たちの周りには健康にまつわるたくさんの食べ物情報が流されておりますが、フードファディズムに陥らないための注意と言いますか、陥らないためにはどうすれば良いのでしょうか?」
A:「今回の大切なポイントに入りますが、まず“これを食べれば絶対です”とか“これさえ食べていれば安心です”と言う話が出た時に“ん?ホントかな?そんなこと無いんじゃないの?”とまず疑ってみることが大事です。ご自分で何も考えずにその情報を鵜呑みにしてしまうことが一番危険です。そもそも健康を維持してくれる特別な食品というのは残念ながらないと思っていたほうが賢明です。むしろ、毎日食べているいろいろな食品がさまざまな形で実は私たちの健康維持に役立っているんだと考えたほうが正解だと思います。
食べ物はあくまで食べ物であって、薬でも毒でもありません。身体に良いから食べると言うのではなくておいしいから食べると言う食本来の姿がやはり良いんではないかと思います。」
Q:「そうしますと万能薬としての食品も、また有毒作用を持つ食品も基本的には存在していないと理解したほうが良いということですね?」
A:「そうですね。その考え方が大切ですね。」
Q:「食品と健康に関しての情報に接した時に、疑問を感じたらまず調べてみるということが大事なわけですね。でも調べるのは大変ですよね。」
A:「そうですね。かかりつけの医療機関をお持ちの方は、まずはそちらでよく説明を受けられるのが良いと思います。実際最近では、TVでこんなことが言われているけどそれを試してみてもいいですか?とかあるいは、ご子息から健康食品が送られてきたけど飲んでも大丈夫ですか?と質問してくれるかたが増えて来ています。これも健康情報が氾濫している側面だとも言えますが、でも、ご質問していただけるのは助かりますね。こちらもいろいろ調べてお答えするのですが、まだまだすべての食品についての結論は出ていないのが現状ではないでしょうか。」
Q:「そうですか。まだ良く分からないことも多いわけですね。でもフードファディズムという考え方を知りまして少し安心しました。食品と健康との関係については大切な関係がありますけど、食べ物に過大な期待を持たないと言うことと、食べ物の健康に対する情報に接した時には、少し冷静に考えてみる習慣をつけましょうと言うことですね。」
A:「そうですね。あまりのめり込まずに、食べ物の情報とは、適度な距離をおいてほどほどの付き合い方をするのが良いんではないかと思います。そしてこれこれは身体に良い!と言う情報を聞いた時は、“これってもしかしてフードファディズム?”と考えてみることをお勧めします。」